和家養豚場は、約270頭の母豚に子豚を産んでもらい、その子豚を育てて出荷する一貫経営養豚を営んでいる。特に、特別な品種の豚やブランド豚を育てているわけではない。生産されている豚は、母豚(ランドレース種と大ヨークシャー種の一代雑種:LW)と雄豚(デュロック種:D)による三元交配(LWD)の肉豚が主であり、ごく一般的なものだ。また、特殊な餌を与えたり、放牧などの特別な飼い方をしているわけでもない。
しかし、そうだからこその、深いこだわりがあるのである。
「品種や餌にこだわってしまうと、『じゃあ生産者の責任はどこにあるんだ』というところがありますよね。生産者の責任というのは、なるべくコストをかけずに、いかにして高品質の豚を育てるかにあると私は思うんです。つまり、品種でも餌でもなく、『私たちが育てているからこの豚肉は美味しいんだ』と消費者に言いたいんですね。私は少し、見栄っ張りなものですから」と笑うのは、和家養豚場の和家貴之さん。
貴之さんは、創業30年以上となる和家養豚場の婿として、5年前に農場に入った。前職は普通のサラリーマンであり、養豚のことは全く分からない。そこで仕事上の素朴な疑問を、サポートしてくれる獣医や飼料会社、食肉加工会社等に素直にぶつけていった。そうしているうちに、養豚家として求められることは、究極的にはたったひとつだけだということに気がついたのだそうだ。それは「豚を健康に育てる」という、ごく基本的なことであった。
そして和家養豚場では3年前から基本理念を「豚がよく食べ、よく眠る」と謳い、豚自体が健康に育つような環境管理・衛生管理を徹底するようになった。目指すのは、「安くて美味しい豚肉」である。
「豚肉はもともと美味しいものですが、それは豚自体が健康に育ってこそです。ですから、私たちが最も大事にしているのは、豚が健康に育つための管理の部分です。その管理も、従業員の誰もができるように、なるべくシンプルなものであることを心掛けています」
例えば餌づくり。ベースには市販の配合飼料を使用しているが、それと一緒に与える、免疫力を向上させるために必要とされる発酵菌やサプリメント等を数多く試してその効果を確認し、本当に必要なものだけを選んでいる。それはつまり、シンプルな管理で豚を健康に育てるための取捨選択である。基本であるからこそ、何ひとつ手は抜かない。
「シンプルな管理は、消費者の方にも分かりやすい、という利点もあります。私たちが大事にしているのは、『うちではこう育てていますので食べてみてください。美味しければまた届けますよ』ということなんです」
今年の四月からは、農場内に直売所「和之家」をオープンしている。とはいえ、常時在庫は置かず、注文された豚肉を月に2回くらい置いておくだけで、いつでも豚肉が買えるわけではない。しかし、そこにも訳がある。
「私たちは養豚家ですから、その本分は豚を育てることであって、豚肉を売って儲けることではありません。ただ『あなたの育てた豚肉を食べたい』と言ってくれる方には、意地でも届けたい。そういう想いから直売所をオープンさせました。ですから、要は私たちとのコミュニケーションがとれていないと、うちの肉は買えないような形にしているのです」
貴之さんは結婚前、和家養豚場の豚肉を食べて「すごく美味しくて感動した」そうだ。それは今にして思えば、「結婚しようとしている人のお父さんがつくった豚肉だったから」だと言う。確かに、美味しいと感じることには、そういう要素も大きい。そして貴之さんは今、そのような関係を、消費者との間で構築しようと考えているのである。
「安くて美味しい豚肉を目指すと言っても、安売りで目を惹こうということではありません。適正な価格はいただいた上で、食べた人が安いと感じる豚肉をつくっていきたいのです。そのためにも、自分たちがしていることを正直に伝えていくことが大事だと思います」
消費者の好みは、時代とともに変わっていく。ブランドにしても、そのPR効力が恒久的に続いていくとは限らない。だからこそ和家養豚場では、「和家さんのところがつくっている豚」という、人と人とのコミュニケーションの上になりたった価値観を大事にしたいと考えているのである。
■分娩舎の母子
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■「仔豚の家」外観
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■肥育舎の豚
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1頭の母豚から生まれる子豚は、12頭くらい。生後45日くらいまで分娩舎で暮らし、28日間ほどは母乳で、その後は人工乳を食べて育つ。
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生後45日〜90日齢の子豚が育つ豚舎。この日齢の豚は病気にかかりやすいため、他の豚舎とは離れた位置に設置されている。そのことによって、豚舎から豚舎への病気の感染を防いでいる。
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110日〜200日齢の豚が暮らす豚舎。体重が120kgくらいになったら出荷される。ここでは、ひたすら食べては寝ての繰り返し。環境が整っている豚舎で快適に暮らすことで、脂がのりヘルシーな豚肉となる。
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■発泡消毒
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■毎日の水振り
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■配合飼料に混ぜる菓子粉
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豚がいなくなって空いた豚房は、清掃・乾燥後に発泡食毒をしている。次に入る豚が健康に育つために欠かせない作業だ。
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豚舎内に水振りをすることで、湿度を一定に保ち、肺炎などを防止する。
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肉質を良くするためには麦を与えるのが良いが、その麦がなかなかない。そこで和家養豚場では、人間用のお菓子の残渣を利用した菓子粉を与えている。原料は小麦であり、もともと人間用の食べものだから安全レベルは折り紙付き。食物残渣利用という、広い意味での環境面への配慮でもある。
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■直売所「和之家」の前に立つ貴之さん
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■真空パックされた豚肉
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「和之家」は、貴之さん夫婦の家を新築するときに、一緒につくられた。「和家養豚場の“和家”の中に私の名前の“之”を入れました。やはり自分がつくった豚だということをPRしたくって(笑)と貴之さん。
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「和之家」で売られている豚肉は真空パック処理されている。そのことによって、賞味期限が長くなり、冷凍焼けも起こしにくい。肉の色が悪く見えるが、パックを開けると不思議とピンク色に変わる。
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